彼方の家族

彼方の家族

2023/日本/81分

イントロダクションINTRODUCTION

本作は東日本大震災で父親を亡くし、現在も喪失感を抱えたまま生きる高校生・奏多と、父親との間に問題を抱える同級生・陸の交流を通し、あの日から現在まで続く震災の記憶と、再生を静かに描き出す物語。
第19回大阪アジアン映画祭にて初上映され注目を集めた作品が、震災から14年の目の春に開を迎える。東北芸術工科大学に研究生として在籍していた坂内映介が自身の震災体験を元に脚本を執筆、同大学の卒業生である川崎たろうと共同でメガホンをとり、日常の機微を積み重ねた丁寧な演出で孤独を抱えたまま生きる高校生たちの心情を優しく、せつなさを込めて浮き彫りにした。
また、『お盆の弟』『無限ファンデーション』などの大崎章がプロデューサーを務めている。
キャスティングは主演の奏多役・相澤幸優、山内大翔含め、東北地方でのオーディションで決定。バイプレイヤーとして『室井慎次 敗れざる者』など多くの映画に顔を見せる秋田出身の木村知貴も父親役として出演。それぞれの役柄に血を通わせている。

ストーリーSTORY

幼い頃に震災で父を亡くした奏多にとって父親は遠い存在であり、残された自分にできることは何なのか、わからないまま過ごしていた。そんな奏多が転校先の高校で、担任教師の息子・陸と出会う。奏多は陸の明るさに最初は戸惑っていたが、次第に距離が近づいていき、お互いに初めて父親に対する思いを打ち明け合うのだった。しかしある日、奏多が学校にいくとそこには陸はおらず……。

彼方の家族
彼方の家族
彼方の家族

キャストCAST

相澤幸優 山内大翔 渡辺友貴 渡邊祐太 深谷和倫 早瀬瑠衣 下永正虎 木村知貴

スタッフSTAFF

監督:川崎たろう 坂内映介 製作・脚本:坂内映介 音楽:小山和生 プロデューサー:大崎 章 川崎たろう 坂内映介 撮影・照明:小倉和彦 音響:黄 永昌 編集:川崎たろう ヘアメイク:小野塚祐奈 佐藤舞衣 中里有希 キャスティング協力:テアトルアカデミー仙台 協力:東北芸術工科大学 助成:芳泉文化財団 配給:MAP

予告篇TRAILER

コメントCOMMENT

川崎たろう(本作監督)
苦しい気持ちなんて、葬ろうとするのが正解なのか。 日常を根本的に変えられてしまった脚本家の坂内君はなぜこれを今撮ろうと思ったのか。 震災を体験していない東北出身の自分は何を語れるのか。このような混沌とした想いがこの映画を生みました。 奏多、陸と彼らの家族がこれからも居続けられる場所があることを願って。

坂内映介(本作監督)
震災や事故、様々なきっかけで人との別れは突然訪れてしまいます。その時に僕たちが出来ることは彼らとの思い出を覚えている事だと思います。一緒にご飯を食べた事、遊んだこと、怒られたことどんな些細な思い出も僕たちが覚えていれば彼らは心の中で生きていると僕は思います。覚えている事、誰かを想う事は人と人を繋げてくれる尊い行為です。この映画を観た人が誰かを思い出すきっかけになれたら嬉しいです。

木村知貴(本作出演)
親が子を想う心、子が親を想う心。
そこにズレが生じると溝がどんどん深くなり修復が難しくなる事もあると思う。
その時、それでもお互いを「家族」と呼べるか。家族ってなんだろう。その一助になれたら幸いです。


林海象(映画監督)
この映画は「不在と存在」についての映画だ。人は生きていくなかで多くの出会いと別れがある。別れにはいろんな理由があり、天災などの抗えない運命もある。別れた人たちは「不在」という実在の中で「存在」していく。亡くなり別れた人たちはそれぞれの心の中で「存在」し続ける。この映画のラストはそれを見事に表現している。東北の寒風の風景のなかでこそ、その「不在の存在」は立ち上がる。美しい映画だと思う。

諏訪敦彦(映画監督) 
教室でリクが父に殴られたことを告白する時、彼は奇妙な所作でカナタとの距離を不規則に変化させる。表情はいつも笑っているのに、リクの体は何か得体の知れないものに出会って戸惑っているかのようだ。それは何だろうか?この時カナタはリクの秘密を知っただけではなく、リクという「存在」を経験している。リクが直面する得体の知れないもの、それは「私が存在している」という事態である。しかし、ある日プツリと出会ったはずの存在が消える。父や友が存在した世界と、いなくなってしまった世界には実は大きな違いはないのかも知れない。雪の積もった広場、誰もいない路地に降り注ぐ弱い陽の光、カメラは何も変わらない世界を捉えるが、その変わらなさに私は味わったことのない痛みを感じる。カナタの視点から決して離れないカメラは、常に地上に留まり、神のように世界を見渡すことはできないから、大切な人に何が起きたのかカナタには見えない。彼らは理由もなくただ世界から消えてしまう。『彼方の家族』の奇跡的な出来事とは、そんな死者がふと蘇ってしまうことではなく、「いない」というカメラには映らないはずの「不在」が何気ない風景の中にハッキリ写っているということである。これほど痛切な喪失の肌触りを映画で感じることは稀である。いや映画だからこそそれが可能だったのだ。

根岸吉太郎(映画監督)
震災から逃れた多くの人々が山形で生活している。誰もが身近な死を抱えて、沈黙していた.それでも湧き上がる声を抑えきれない若者がいて、描かずにはいられない魂が映画を創らせた。二つの家族、二つの死、冬の凍てつく海に向かって若者は何を語るのか.何を見つけるのか。一歩踏み出せる、この映画の作り手が若者に力を与える。

佐藤広一(ドキュメンタリー監督)
震災から14年が経った。当時子どもだった東北の学生たちがそれを映画にした。これは、「あのとき」について多くが語られた今だからこそ描けた、ひとつの句読点であり答えである。スクリーンを覆うヒリつく東北の吹雪。寡黙で不器用で、それでいてなんだか憎めない、いかにも東北人らしい登場人物たち。彼らの生き方そのものが、彼方に行った家族との物語を雄弁に語っている。

今関あきよし(映画監督)
映画という装置は心のタイムマシン。失った時間は映画の中で再生することが出来る、何度でも繰り返し。カメラが主人公の奏多(かなた)くんの視線の先を追い続けているうちに、僕ら(観客)はいつの間にか見えないはずのものを見ている。それは奏多という名を借りた《この映画の作り手》たちのもの凄く強い想いが具現化されているからだ。とても残酷で、でも、とても美しい映画。また何度か繰り返し観なければ…。

ヴィヴィアン佐藤(ドラァグクイーン/アーティスト)
「不在」とは「存在」との共存の有り様だ。失ったはずの自分の手足が痛みを感じるファントムペインという現象がある。脳内の身体地図が書き替えられて生じる痛みだ。生者にとって不在者の存在は日毎に大きくなっていく。。しかし、この物語は残された生者の物語であると同時に、生者に寄り添い見守る優しい死者の視線が描いてみせた作品にも見える。あまりにも人間的な手持ちのカメラワークこそ現世に念を残す父親の視線、気持ちそのものだ。

守屋文雄(映画監督・俳優)
主演の男子ふたりがいい。順撮りなのか、途中から芝居が変わる、素直になる、まだ若いのにおっさんみたいに見える瞬間もある、ちょっとしたやりとりに笑わされ、なんだか自分も友だちになったみたいな気分になる。現実のできごとも、フィクションの中のできごとも、辛い題材を扱っているはずなのに、ふたりの男子が微笑ましくて、私はなんだか心地がよかった。

小野寺系(映画評論家)
大きな震災の後に、幽霊の目撃談が増えるという事実には、被災者の心の傷や犠牲者に対する遺族の気持ちが反映されている。そういったあるがままの思いを映画にする必要性を、東日本大震災と復興の日々を東北で経験した私自身も感じている。
『ムーンライト』や『ニッケル・ボーイズ』などの映画が、アフリカ系アメリカ人の個人的な視点で感覚的な世界を映し出したように、消えない記憶とともに生き続ける人々の目で日常を切り取ったことが、本作の存在意義だ。

渡辺サトシ映画監督(「よみがえりのレシピ」「YUKIGUNI」)
本作の両監督が大学時代を過ごした山形盆地には、古来より魂の帰る地とされる月山と蔵王山が鎮座し、冬は白銀の世界に包まれる。その盆地で映画制作を学んだ二人の青年が制作したのは、3.11の体験と記憶をもとに丹念に心理描写を重ねて作られた映画だ。
大地が揺れ、家族が離散し、心がさまよう時、人々は何を思うのか。出会いと別れを繰り返しながら、行き場を求める魂は、どこへ還るのか。震える心の拠り所を映し出し、そして導いていくのは、あの日も降っていた雪だった。そして、それはあの海に続いていた。

ほたる(俳優・映画監督・プロデューサー)
東北の鈍い色をした空と雪と海に、不器用に生きている少年。学校というものからだいぶ遠ざかっている自分には、その不器用さがちょっとまぶしいくらいな青春の時間。そっといなくなってしまった人たちのことをずっと忘れずに生きるって、大事だけど難しい。自分はそのことを分かってしまっている大人だからか、青春真っ只中の少年よりも、その周りで彼を心配し、どう扱ったらいいか迷っているような大人たちの方が、なんだか親近感を覚えてしまう。
どれだけ時間がたっても忘れないこともある。これを書いている今日は3.11生きている限り覚えている。

荒井幸博(ラジオ・パーソナリティ)
積雪に奏と陸が並んで大の字になる姿は岩井俊二監督『キリエのうた』のキリエとイッコを彷彿とさせる。薄い硝子のような繊細さとキラキラした輝きを併せ持った十代を描き出すと共に、親,教師など周囲の大人の重要さを再認識させられた。

平谷悦郎(脚本家)
あの津波は父の想いも父と祖父との間で引き裂かれる奏多の想いも全てを呑み込んで、宙吊りにしてしまった。ただ、命が喪われてもその想いや存在がなかったことになるわけではない。遺された者たちの人生は続く。死んだ人間の“不在”を抱えながら。突如として家族を喪った人間の気持ちは奏多にも痛いほどわかる。だからこそ陸の父親である先生に「アイツはもういない」で済ませてほしくなかった。陸のことをちゃんと見てほしかったのだ。卒業式の日に先生と相対した奏多の痛切な叫びが胸を打つ。

スズキトモヤ(シネマ・ジャーナリスト)
震災の傷が癒え無い日本。阪神・淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震。何年経っても、被災者の傷は癒えない。時間と共に復興し、活気、笑顔、元気を取り戻す一方、被災に遭われた人々の心の復興は整わず。同じ体験で父親を亡くした少年も、喪失感で心が沈む。日本の未来、必ず発災する。その時の私達の傷心が癒え、復興の支えが求められる。私達はいつも、明日を夢見て生きている。

川村夕祈子(編集者・ライター)
監督の体験に裏打ちされた物語は重い。重苦しいんじゃなくて、納得させられる重み。悲しみと苦しみが幾重にも重なり、それらが表層的でないのは、主人公の奏多が、友人とつながろうとする、笑おうとする、家族を大事にしようとする、生きようとする、静かな力強さが見えてくるからだろう。きびしさのなかにこそうつくしさが際立つ。でも、生きるんだよ、そんなふうに思った。


上映情報THEATER

都道府県 劇場名 電話番号 公開日
東京都 K’s cinema 03-3352-2471 上映終了
神奈川県 横浜シネマリン 045-341-3180 上映終了
岩手県 盛岡ルミエール 019-625-7117 上映終了
宮城県 石巻シアターキネマティカ 0225-98-4765(11~17時 月・火・木のぞく) 2025/5/10(土)-11(日)
山形県 MOVIE ONやまがた 023-682-7235 上映終了
山形県 鶴岡まちなかキネマ 0235-64-1441 上映終了
福島県 湯本駅前ミニシアターKuramoto 2025/5月
大阪府 シアターセブン 06-4862-7733 2025/5/17(土)
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